漢方資源の問題

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    昨年の夏ごろ、「漢方薬が危ない」というテーマで、あるテレビ局が10分程度の特集を放送しました。患者様の中でもご覧になった方がおられたようで、「漢方薬がなくなるんじゃないか」という心配をされた方も多かったようです。

    現在、漢方薬は、その原料となる「生薬」の80%以上を中国産に頼っています。その多くは現地での栽培ですが、自生植物を採取して原料とするものもあります。漢方薬の多くに含まれる「甘(かん)草(ぞう)」はその代表的なものであり、多くは中国北西部の乾燥地域で採れるのですが、地球温暖化の影響か、急速に進む現地の砂漠化により、甘草の採取量が徐々に少なくなってきています。また、甘草に限らず他の自生生薬の減少も指摘されています。また、中国の急速な経済発展は漢方薬の栽培生産にも影響を及ぼしています。その一つは、都市部に偏った経済発展によって、農村部の働き手がどんどん都市部に流出し、生薬栽培農家の人手が足らなくなって農地が荒廃するため、生産量が低下しているという事実です。そしてもう一つは、これが大きな問題なのですが、農村部の諸物価、労働賃金の上昇により、生薬価格が急激に上昇していること、さらには、輸出量の調整により漢方薬が「レアメタル化」する危険性があることです。

    このように地球温暖化や中国の経済発展による生薬生産量・輸出量の減少があるのは事実であり、日本の各メーカーも、中国以外での生産(ラオスなど東南アジアや国内)、中国においての契約栽培の強化などの対策をおこなっており、いまのところ、生薬の供給が確保できない、ということは少なくともここ数年の間はないと言われています。

    ただ、それ以上に大きな問題があるのです。それは、日本の薬価基準の問題です。ご存知のように、健康保険を用いた日本の医療では、患者様に提供する際の薬の値段(これを薬価と言います)は、毎年厚生労働省が定める薬価基準によって厳密に決められています。一般的に「漢方薬は値段が高い」というイメージがあるかも知れませんが、それは街の漢方薬局などで原価の何倍もの価格をつけられて売られている場合のことで、実は漢方生薬の薬価は驚くほど安いのです。ちなみに、先ほどの「甘草」は1グラム1.5円、比較的高価で江戸時代には「娘を売ってでも」などと言われた「朝鮮人参」でも1グラム17円です。

    その一方で、前述したように漢方薬の生産価格は年々上昇してきています。そして、結果として、生薬の卸価格が薬価を超えるものがどんどん発生してきているのです。つまり、売値より卸値が高いということになり、これでは、事実上漢方薬の提供ができないことになってしまいます。つまり、漢方薬が危ない、というのは、「ものがない」のではなく、「厚労省の薬価が安すぎて提供できない」ということなのです。漢方を医療に取り入れた場合に、西洋薬一辺倒の医療よりも結果として医療費が抑えられるというデータもあります。現在の政府の方針によって漢方治療が荒廃すれば、結果としてかえって医療費が高騰するということを、患者さま方にも知っていただき、是非、政府にも声を届けていきたいと思っています。



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